税理士はfreeeにPOLAの夢を見る?
POLAと聞いて何を思い浮かべるでしょう?
普通の人は化粧品メーカー以外思う浮かばないと思いますが
POLA(Principle of least astonishment)=「最小驚きの原則」
と言うPOLAがエンジニア界隈には存在します。
POLA
Webサイトのデザイン、ソフトウェアのインタフェース、プログラミング言語のAPIなどに関して、
- 「ユーザが予想した通りの使い方を提供すべき」
- 「ユーザの学習曲線を最小化にすべき」
という考え方で、例えば、
- Webサイトの場合、サイトのヘッダーにあるロゴマークをクリックするとトップページに移動する
- Windowsのアプリケーションなら、「Ctl + S」で保存、「Ctl + Z」で戻る
- プログラミング言語ならParseInto(string, radix)の基数radixはデフォルトで10進数
などです。
逆にPLOAに反するアンチパターンとしては
- Webサイトでブラウザの戻るボタンで戻れない
- Macのアプリケーションで、「Ctl + e」を押したら、行の末尾に移動せずに命令が実行されていしまう(pgAdmin3)
- 第一引数を勝手に解釈して基数を決めるjavascriptのparseInto
console.log(parseInt('020')); // 16 (えぇ汗)
- Rubyで真の値が0 (個人的見解!)
などがあります。
クラウド会計ソフトfreee
さて、freeeというクラウド会計ソフトがあります(私も最近利用しています)。
www.freee.co.jp
使うとわかりますが
- 複式簿記の知識がなくても企業の経理業務ができる
- プログラマ的な思考で問題の解決方法の最短ステップを経由するインタフェース設計
- Webは生き物の如く、常に機能が(いつの間にか)アップデートされていく
- SlackやExcelと言った他のソフトとの連携やAPIの公開と言ったオープンな志向
という点が旧来の会計ソフトと比較した特徴かと思います。
私もfreeeを使う以前は複式簿記で会社の帳簿を付けていましたが、初め非常に戸惑いました。
借方/貸方を意識せず取引データが登録できて楽なんですが、逆にそれに慣れている人にとっては非常に違和感を覚えます。
例えば役員報酬の支払いの場合、従来の複式簿記だと (金額は適当です)
借方 / 貸方 (備考) 役員報酬 700,000 / 普通預金 700,000 (代取8月分) 法定福利費 200,000 (社会保険料) 預り金 100,000 (源泉徴収税)
みたいになりますが、freeeだと
となり、これが従来の借方/貸方脳で記入していた人からすると非常に「驚き」を覚えます。しかし一方、借方/貸方と言った複式簿記の知識がない人にとっては、直感的にわかりやすい方法になります。よくよく考えると支給額から社会保険料や源泉徴収税の預り金が引かれた額が、実際に振り込まれるお金です。
複式簿記が常識で簿記の知識がなければ帳簿の入力ができなかった従来の常識に対し、freeeは会計村の外から、従来の慣習を無視し問題解決への最短経路を選択するというプログラマ的な発想のもと、クラウドの利便性とWebのインタフェースを引っさげ乗り込んできました。
freeeはPOLA?
freeeは
- 会計の知識がある人にとっては従来の複式簿記の考え方が邪魔をして「驚き」を覚える、非PLOAなソフトウェア
- 逆に会計の知識がない人にとっては直感的に使える、PLOAなソフトウェア
と言えるでしょう。
複式簿記を考えた人は天才だなと思っていましたが、それをラッピングし、旧来の慣習を捨てて最新のテクノロジーで知識がない人でも使えるようにしたfreeeは凄いと思います。
普段からソフトウェアをデザイン・構築している私とって、freeeは「衝撃」でした。
そういった意味で、ソフトウェアエンジニアにとってはPOMA (Principle of most astonishment)なソフトウェアで、使うたびに「こういうソフトウェアを作るべきだ」と非常に学びを受けています。
このサービスが提供する本来の目的とは異なるところではありますが。